ボードゲーム『共円』について




2.『共円』でちょっと強くなるには
2.1 まえがき
2.2 一般に与えられた4点が共円か否かを判定する方法
2.3「共円定石」
2.1 まえがき

第1章で、『共円』の基本的なことについて書きました。
『共円』のルールはもうお分かりいただけたことと思います。

さて、ルールだけを理解した初心者が、経験者と2人で『共円』の対戦をします。
すると、惨敗するはずです。
理由は単純で、初心者は、共円の指摘がほとんど出来ないのです。

相手を負かすためには、こちらが共円の指摘をしなければなりません。
そのためには、自分の番の間に、こちらが共円を発見しなければならないのです。
そのために、こちらは共円を探します。

共円を探す時、何をするでしょうか。
まず、いかにも共円でありそうな4点を見つけ、
それらが本当に共円であるか否かを判定します。
この「判定」の作業を、下のクイズでやってみましょう。

1.下の図の4点が共円であるかどうかを判定しなさい。


2.下の図の赤色の3点を通る円は、A,B,Cの点のうちどの点を通るか。



この作業に時間がかかっていると、とても共円の指摘など不可能であることが
お分かりいただけることと思います。
実際は、自分の番の間には「相手の共円を探す」ことだけでなく
「自分が置く場所を探す」こともしなければならないので、なおさらです。

『共円』で初心者から経験者になるためには、最低限この作業を
素早く出来るようにならなくてはなりません。

これから説明する「共円定石」は、(有名なものについては)
経験者ならほとんど誰でも知っているはずです。
「共円定石」を覚えることにより、4点が共円か否かの判定はもちろん、
共円を見つける速度も画期的に速くなります。

上に挙げた2つの問題についても、もし「共円定石」をしっかり把握していれば、
各問5秒程度で自信を持って答えられるはずです。
(1問目は、12角形定石その2により、共円である)
(2問目は、16角形定石その1により、A,B,Cの3点とも円周上でない)

前置きはこれくらいにして、「共円定石」そのものを見ていきましょう。
ただし「共円定石」は多少特殊性を持つものなので、
「共円定石」を紹介する前に、
「一般に与えられた4点が共円か否かを判定する方法」にいくつか触れておきます。
2.2 一般に与えられた4点が共円か否かを判定する方法

この節では、与えられた4点が、いかなる場合であっても
共円かそうでないかを判定できる方法を簡単に紹介します。

(1) 中心を求める
3点を通る円の中心を(2本の垂直二等分線の交点として)求め、
その中心から残りの1点までの距離が
他の3点までの距離と等しいかどうかを調べます。
等しければ4点は共円であり、異なれば4点は共円ではありません。

(2) 円周角の定理、対角の和
凸四角形ABCDがあるとき、
・4点A、B、C、Dが共円 ⇔ ∠BAC = ∠BDC
・4点A、B、C、Dが共円 ⇔ ∠DAB + ∠BCD =180°
これらは特に、円周角や対角が90°のときに多用します。

(3) 方べきの定理
凸四角形ABCDがあり、
・対角線ACと対角線BDの交点を点Pとするとき、
4点A、B、C、Dが共円 ⇔ PA・PC = PB・PD
・直線ABと直線CDの交点を点Qとするとき、
4点A、B、C、Dが共円 ⇔ QA・QB = QC・QD

(4) トレミーの定理
4点A、B、C、Dが共円
⇔ AB・CD + BC・DA = AC・BD

(5) 複素反転による方法
複素平面において、4点 0、α、β、γが共円
⇔ 複素平面において、3点 1/α、1/β、1/γが共線
(⇔ 複素平面において、3点 βγ、γα、αβが共線)

2.3「共円定石」

「共円定石」とは、「同一円周上にあるいくつかの点の集まり」であり、
それらの点の配置を覚えておくと、与えられた4点が共円か否かの判定に
大いに役立ち、共円を見つける速度が画期的に速くなります。

以下、ひとつずつ見ていきます。

(1) 共線
同一直線上にある4点は、共円です。(定義より明らか)

(2) 等脚台形
[付録]でも触れたように、任意の等脚台形の4頂点は、共円です。

特に、「平行な2辺が軸(格子の線)に平行or軸と45°の角をなす等脚台形」は、
容易にそれが等脚台形であることが分かります。
(今後、このような等脚台形を、一般の等脚台形と区別して「単純等脚台形」と呼びます。)


(3) 8角形定石
下図の8角形の頂点たちは、共円です。


ちなみに、この8角形の8つの頂点から任意に4点をとると、
(1) その4点は「単純等脚台形」をなす
(2) その4点からさらに3点A,B,Cをうまく選ぶと、∠ABC = 90°となる
のどちらか少なくとも一方が必ず成り立ちます。
つまり、8角形は、「単純等脚台形」または「円周角・対角90°」に帰着されるのです。


最初の3つは、きわめて当たり前なものばかりです。
しかし、軽率に考えてはいけません。特に「単純等脚台形」は、
その見つけやすさにもかかわらず、忘れられがちです。
単純等脚台形に引っかからないようにするには、
まず「等脚チェック」を行うのがお勧めです。

とうきゃく-チェック【等脚―】
「単純等脚台形」が盤面に存在するかを
虱潰し的に確かめる(「全探索」する)こと。意外と手間がかからない上、確実性がある。
『共円判定』の場合は下図のような感じになる。
『共円』の場合は1点が決定しているので『共円判定』の場合よりラク。



さて、いよいよ次からは本格的な共円定石が登場します。
まずは有名なものから。
(最近は各定石の出現頻度も分かってきているようですが、
ここでは出現頻度にはとらわれず、有名なものから順に挙げていくことにします。)


(4) 12角形定石その1


上図の12点は共円です。
また、この円上には、この12点以外の格子点はありません(以後同様です)。

これはもっとも有名な共円定石です。また、五大共円ist(*)の一人である りんごさんの調査により、これ以降の定石の中で もっともよく出現する定石であることも分かっています(9路盤において)。

この定石の覚え方(あるいは調べ方)としては、
「いち、桂馬、桂馬、・・・」という覚え方と
「5×5の正方形+周囲に8点」という覚え方があります。
ちなみに、後者のほうが実践的と言う人が多いです。

(* 五大共円ist)
5人の『共円』の先駆者達のこと。
ちなみに、彼らは皆『共円』誕生の瞬間に立ち会っている。


(5) 12角形定石その2


これは「12角形定石その1」を√2倍して45°回転したものです(複素平面では1+i倍)。
「いち」が「斜めいち」に、(1,2)の桂馬が(1,3)に変化しています。

(6) 16角形定石その1


「軸に平行な長さ3の辺」を持つ16角形です。
3,2,1,2,3、みたいなイメージで覚えられます。

(7) 16角形定石その2


「軸に平行な長さ1の辺」を持つ16角形です。
これは「16角形定石その1」とは本質的に異なるものです。
1,(3,1),(2,2),(1,3),1、みたいな「4を分ける」イメージで覚えられます。


(毎回覚え方を書いていますが、これらにとらわれることなく
自由に覚えてもらって差し支えないと思います。)

(8) 6角形定石


小さな定石です。
この定石は、12角形定石のその1やその2を縮小した形となっています。
(縮小時に12点のうち6点が格子点上に来る)
「< >」の形でそのまま覚えられると思います。
ちなみに、この定石も8角形定石と同じように
「単純等脚台形」または「円周角・対角90°」に帰着されます。


ここまでの定石を頑張って覚えれば、ある程度は
いい勝負ができるようになると思います。
この辺りから、だんだんマニアックになってきます(笑)

(9) いちご定石


この定石は、共円界に大きな衝撃を与えました。
まず、これまでの定石と比べて、円周上にある格子点の数が明らかに少なく、
たったの4つしかありません。
この4点が共円であることは方べきの定理を使うと
簡単に確認できます(√5×√20 = √10×√10)。しかし、他にも、この円周上に
格子点があるのではないか、という疑問がわいてきます。
ところが、調べてみると、無いのです。
さらに、この円の中心の座標を計算してみると、これまでの定石と比べて
はるかに汚い値が出てきたのです!
(中心の位置から最寄りの格子点までのベクトルが(1/14,5/14)となります。
定石の名前「いちご」の由来はこの分子の(1,5)です。)

この定石は、さきの方べきの定理の形で覚えてしまっても問題ないでしょうし、
また「(1,5),(1,4),(2,3),(3,5)」(4点がなす四角形の辺のベクトル)
と唱えて覚えることも出来ます。
(ここにも(1,5)が出てきますが、これは定石の名前の由来ではありません。要注意。)

いちご定石がある時には、必ず(1,5)の辺があります。
つまり、盤面に(1,5)の辺が無ければ、盤面にいちご定石は存在しないと言い切れます。
((1,4)や(2,3),(3,5)の辺についても同様のことが成り立ちます。)

(10) メキシコ定石


この定石は、第46回IMO(国際数学オリンピック)メキシコ大会の最中に発見されたので、
こんな名前がつけられています。

この定石から任意に4点をとると、その4点は必ず
(2,2)の辺か(1,2)の辺を含みます。
(「(2,2)の辺か(1,5)の辺を含むか、4点が単純等脚台形をなす」も成立します。)






ここから先の定石は、あまり有名ではありません。
名前がついてないものも多くあり、そのせいで有名でないのかもしれません。
しかし、最近の調査では、ここから下の定石の中にも出現頻度の高いものがあるようです。


次の4つは、9路盤の場合、(登場するとすれば)盤面の「端」に登場することが
比較的多い定石達です。

(11) [細い台形×2]


2つの台形が向かい合っています。
9路盤の場合、盤面の向かい合う縁のそれぞれの付近に、台形が1つずつ出現します。
この定石には点が8つありますが、9路盤の中には最大で6点しか収まりません。

(12) [太い台形×2、呪われた定石]


2つの台形が向かい合っています。
上の定石とは違い、9路盤に8点全て収まります。

ちなみに、この定石が「呪われた定石」と呼ばれているのは、
ネット上で『共円』を遊ぶことが出来る『オンライン共円』において、
2006年7月から8月にかけてやたらとしょっちゅう発生した定石だからです。

(13) [えぐい六角形]


奇妙な六角形です。
平行な2辺が1組しかありませんし、しかも、その2辺の長さが異なります。
さらに、左下の4点は、よく見ると等脚台形をなしています。

この定石の6点のうち、9路盤の中には最大で5点しか収まりません。






さて、ここから先の定石は、全然有名でなく、
把握できている人はごくわずかだと思います。

しかし、ここから先の定石は全て、9路盤に出現する形が
(単純等脚台形を除くと)全て1通りに定まるものばかりなので、
それさえ覚えてしまえば対処できます。


(14) [12角形定石その1の2倍]
(図)
(15) [(1,1),(2,3),(1,3)]
(図)
(16) [3 * 4 = 2√2 * 3√2]
(図)
(17) [2 * 4 = √2 * 4√2]
(図)
(18) [4 * 6 = 3 * 8]
(図)
(19) [6 * 10 = 3√5 * 4√5]
(図)


ここまで数多くの定石を紹介しました。いかがでしたでしょうか?
実は、9路盤で『共円』をプレイするときに出現する可能性のある定石を、
これで全て挙げたことになります。

途中で何度か「定石の出現頻度」について言及しましたが、これについては
第3章にまわすことにします。
また、「共円式」に関することも第3章で触れたいと思います。

それでは、この章はこの辺で終わりにします。

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